高専からの進路選択では、敷かれたレールを走るのでは無く、進学するか就職するかを決める所から考える必要があります。そんな難しい意思決定をする上で知っておくと良い高専卒の給与や大学院進学の話についてまとめました。進路に悩む高専生の参考になれば幸いです。目次「高専卒の平均年収」の罠高専卒の平均年収は高専から大学院への進学最後に「高専卒の平均年収」の罠「高専卒 平均年収」でgoogle 検索すると、「高専卒の平均年収は430万円」であるとし、以下の様な表が出てきます。 厚生労働省 令和3年賃金構造基本統計調査 上表をもとに作成高専生がこの指標を見て「高専卒は大卒よりも高卒に近い給与水準なのか」と思ってしまうのはよくあることですが、この指標は高専卒と短大卒をまとめて扱っており、高専卒の平均年収を正確に反映していません。下図を見ると、昭和50年から平成11年までの短期大学卒業者数は17 〜 20万人で推移しており、平成20年代も6万人ほどで推移しています。その間、高専卒は変わらず約1万人です。平均年収にはこの人たちの年収が反映されていますから、「高専・短大卒」の平均年収はほとんど短期大学卒業者の平均年収であると言っても差し支えないでしょう。 短期大学の現状に関する参考資料高専卒の平均年収はそれでは、高専卒の平均年収はどの程度なのでしょうか。実は、高専卒の平均年収について正確に調査されたことはありません。正確に平均年収を調べた物ではありませんが、高専卒の実態について行われた調査で、3408人の高専卒にアンケート調査を行ったものがありますので、その結果から、高専卒、国公立卒、私立大卒の年齢別の平均年収を見ると下表の様になります。 国公立大卒高専卒私立大卒53 ~ 59歳866.0855.1740.342 ~ 52歳773.6813.9682.831 ~ 41歳593.3621.2503.025 ~ 30歳415.2479.1402.7 学歴別・年齢階級別・現在の収入(男性有業者のみ:単位 = 万円) 上表をもとに作成このアンケートを見ると、高専卒と大学卒の間に給与の差は見られません。サンプル数が少ないことと、アンケート調査であるため回答者の属性に偏りが出ることには注意が必要ですが、高専卒と短大を一緒に扱う厚生労働省の調査と、高専卒に注目して行われたこの調査では違った姿が見えてきます。実際に、高専卒と大学学部卒では昇進機会や収入の点での差はほとんど無いと考えても良いでしょう。一方で、高専卒・大学卒と大学院卒では仕事の専門性や給与の点で明確な差があります。高専から大学院への進学高専卒・私立大学卒・国公立大学卒の大学院進学率は以下の様になります。最終学歴 高専(本科)大学・専攻科大学院その他計(N)高専卒74.88.014.41.7100(2934)国公立大学卒 55.043.71.4100(362)私立大学卒 80.817.91.3100(464) 学校類型別・卒業者の最終学歴(男性のみ、%) 上表をもとに作成この様に、高専卒の大学院進学率は国公立大学卒に比べて明確に低くなっています。学歴別の収入を見ても、高専卒の人材は国公立大学卒の人材と同じくらいのパフォーマンスを発揮しています。また、中学3年時の成績も高専卒・国公立大学卒はほとんど同じで、私立大学卒よりも良い傾向にあります。この様に、国公立大学レベルのポテンシャルを持った人材が大学院に進まない傾向にあるのは勿体ない事かも知れません。最後にこの様に、・大学卒(学部)と高専卒では給与に差が無さそうであること・大学院卒と高専卒・学部卒では給与に差があること・高専からの大学院進学率は私立大学並の水準であることが分かりました。ここから、「高専卒から大学卒の学歴にアップするために大学編入する」という理由で大学編入を目指す必要があるのか、慎重になった方が良いと考えられます。高専からの進学を考えるのであれば、高専卒と大卒の差といったネガティブな理由よりも、やりたいこと・好きなことを大事にして進路選択をした方が良いかも知れません。また、より専門性を活かして仕事で活躍したい場合は、学部卒では十分では無いとも捉えられます。高専からの進学を検討される場合は、大学院進学を検討した上で専攻科からの大学院進学なども視野に入れて考えると良いでしょう。