高専での確率統計高専では実践的な専門教育を早期に行うために、早い段階で微分積分や線形代数の勉強をする。高専で習う専門科目を理解するには必要な知識なのでこれは大変な事だ。ちなみに伝統的な大学では、教養課程(リベラルアーツ)をクリアしてない者には専門科目を履修する権利が与えられないらしい。この制度を導入している数少ない日本の大学が東京大学で、駒場での教養課程(リベラルアーツ)をクリアしないと専門科目に進めない。逆に、専門科目に進める人は微積や線形代数は大前提で皆知ってるので非常に話が早いし、専門知識をどうやって使うか、という広い視点を身に着けている。そう思うと、高専で実践されている「楔形カリキュラム」では、リベラルアーツと専門科目を絶妙なバランス感覚で織り交ぜる必要があるので、難しい舵取りが必要になる。特に確率統計に関しては、高専の教育カリキュラムでは扱いが奇妙な事になっているので、編入試験対策で躓きやすいポイントに成っている様に感じる。特に難しいのは、微積が発展する前の組み合わせ確率の部分だ。高専では微積積分を早めにやってしまうので、積分の考えがそのまま使える確率分布の話は得意な一方で、それよりも本来初歩的な内容である「赤玉が◯個、白玉が◯個あるときに〜」みたいな問題が苦手な人が多いと感じる。それなのに、高専生の受け入れ数が多い技科大や地方国立大学の編入試験を見ると、結構この手の確率の問題が出てくるので困ってしまう。この様な確率の勉強をしないといけない高専生は、微積以前の古典的な確率と、微積以降の確率統計とで「思考のモード」を切り替える必要がある。賭けで発展した組み合わせ確率微積以前の確率では、概念として学ばないと行けないことはそんなに多くない。条件付き確率、同様に確からしい、ぐらいの基本的な知識があれば後は問題を解くしかない。それしか方法は無いので、微積や線形代数みたいな体系的な理論を使って問題のパターンに当てはめ、一歩一歩解いていけば自ずと答えにたどり着けるような数学に慣れているとどうすれば良いのか分からない。しかしここで思い返して欲しいのは、そもそもこの辺りの理論は博打によって発展したという事だ。当然、基本的なルールは非常にシンプルで、経験則的に頭を使って考えるしか無い。この時代の代表的な本は、ジロラーモ・カルダーノ(Girolamo Carfano 1501 ~ 1576)が著した「サイコロの博打について」とかになる。まだニュートンもライプニッツも生まれていない時代の人だ。微積みたいに立派な理論はこの範囲では存在しないのだから仕方ない。カルダーノ(wikipediaより引用)高専からの大学編入において、この範囲の確率の参考書としてよく挙げられるのが、細野先生のくまさんの本だ。しかし、個人的にはこの本が高専生の間で使われている事が古典確率で躓く原因の一つだと思う。この本は、「古典的な確率モード」で頭を使う方法に慣れている高校生が演習をするには良い本だが、「古典的な確率モード」に切り替える方法については解説してくれない。また、これはちょっと関係ないかもしれないけど、本自体の装丁が安っぽくてやる気が出ない。しかも難しいのにくまさんのイラストが可愛いのでちょっと頭にくる。https://amzn.asia/d/258RVIM僕が古典確率を克服したのは、安田先生の「ハッとめざめる確率」だった。この本は微積が発展する以前の確率の頭の使い方を丁寧に解説してくれているので、微積や線形代数みたいな便利な数学に慣れている頭がハッとめざめる感じがした。https://amzn.asia/d/hDSXni7微積と共に発展した確率統計高校範囲の確率が片付けば、微積に慣れている高専生なら分布や推定などを使う大学範囲の確率統計は逆に簡単にマスター出来ると思う。せっかくなので、確率論が発展した流れについて簡単に追ってみよう。どうやら賭博ドリブンの確率論に大きな転機があったのは、ヤコブ・ベルヌーイ(Jakob Bernoulli 1654 ~ 1705)が著した「推定法」(Ars Conjectandi 1713)でのことらしい。彼は、この本で組み合わせや賭けゲームについてまとめながら、大数の法則について考えついた様だ。ライプニッツが「極大と極小に関するする新しい方法」、「深遠な幾何学」を続けざまに出版して微分積分の理論を発表したのは1684 ~ 1686年の事なので、この時既に微分積分は出来上がっている。その後、ド・モアブル(Abraham de Moivre 1667 ~ 1754)が「偶然の理論」の第二版を1738年に出版した。ここでベルヌーイの「推定法」を受けて二項分布をいじり、正規分布を発見することになる。ここまで来れば、完全に微積チックに確率の問題を考えることが出来る。なんと言っても、分布では「積分すると面積が1になる」ので、確率を考える事がそのまま確率密度関数の積分をすることに成る。ここまで進めば微積になれた高専生のフィールドである。